無名塾『ウイリアム・シェイクスピア』 公演・音楽作り奮戦記(石原利矩) 

 

 IFKS会報14号に記載の以下の文章に音源を入れました。以前本サイトの「無名塾『ウイリアム・シェイクスピア』 公演終わる」のページでお聴きいただいたものは省略形でした。このページではMax Takano氏、Tossy氏の演奏したものをMp3で全てお聴き頂ける様に音源を当て嵌めました。楽譜は途中までの場合もありますがご了承ください。
 永年、サイトに動画を入れることは管理人の夢でしたが、やっとこのページに入れることができました。これはゲネプロの収録から音楽が付けられたシーンを抜き出したものです。この動画は携帯のスマートフォンで見られるようになっています。ただし、容量が大きいので機種によっては動作がスムーズに行かないかも知れません。Mp3の音は音楽のみですが、動画では演劇の中でそれがどのように用いられたかお分かりになると思います。
 なおページの最後に以前掲載していたゲネプロの大きめの写真があります。併せてお楽しみください。


 ボイエ作、クーラウ作曲・戯曲『ウイリアム・シェイクスピア』が2013年5月18日〜25日、吉祥寺シアターにおいて、劇団「無名塾」の主催で上演されたことは皆様すでにご存知のことと思います。
 連日、満員のお客様で絶賛を博しました。
 私がこの公演に関わった原因には私の冒険心が起因しています。初めてのことは何でも経験してみたいという好奇心旺盛な性癖によるものです。こんな時は「やればなんとかなる」という『ルル』の時のおまじないの言葉がいつも耳に聞こえてくるのです。

 2012年秋のことです。演出家の杉本凌士氏から「この度、無名塾の公演でボイエ作、クーラウ作曲の『ウイリアム・シェイクスピア』が上演されることが決まりました。ついては音楽についてご相談したい。」とのお話しでした。
 10月9日に無名塾のマネージャー須賀力氏、俳優・松岡謙二氏、杉本凌士氏、俳優・加藤裕人氏との会談が行われました。
 この時点で話し合った音楽に関しては、戯曲に付随しているオリジナルの音楽はそのまま使うことはできない。何故ならオーケストラとコーラスは経費の関係で難しいからという理由でした。音源があればCDなどを利用できないか?と言うことでしたが『ウイリアム・シェイクスピア』の音楽は序曲以外は販売されていません。市販のCDを使う場合は、毎回著作権協会に高額な使用料を支払っているとのことでした。いずれにせよ、この公演ではクーラウの音楽を使うという合意が行われました。この場合、他の作品からの転用もあり得ることも確認しました。
 ご存知のように杉本氏は2010年10月のクーラウ・フェスティバルで『ウイリアム・シェイクスピア』の本邦初演の時の演出者兼俳優でした。この時は演劇の部分を朗読劇仕立てで、主役のシェイクスピアはパントマイムで演じるという素晴らしいアイデアの演出でした。音楽はオリジナルのオーケストラ、コーラス、ソリストを使いました。
 新演出に際して杉本氏の希望は、オリジナルの結婚式の行進曲は暗いイメージなので陽気な音楽に変えたい。シェイクスピアの夢の中で行われる「マクベス」のシーンは劇的なものにしたい(オリジナルは感情の起伏のない静かな音楽です)、その他、劇中シーンの16個所に音楽を当てたいということでした。更に開演前の30分にクーラウの音楽を流し、その間、俳優は三々五々舞台上で上演の準備運動などをお客様に見せて、開演の時間にあわせてその流れでドラマに入っていくという趣向でした。
 私は楽譜は持っていても、クーラウの作品を全部聴いているわけではありません。杉本氏のイメージに適した音楽を求めて、その日から私のクーラウ作品の遍歴?(探索)が始まりました。しかし、音源はとても少なく困難を極めました。その時これらの音楽を市販のCDに頼らず、電子音で行うことを思いつきました。そうすれば無名塾の経費も節減できるし、いろいろな作品から持ってくることができるのです。
 ただし電子音での経験はピアノ音楽を除いて経験の無いに等しいものでした。その時点でLogicProという音楽ソフトを買い入れ格闘が始まりました。先ず楽譜をパソコンで制作して、それにオーケストラの音を当てるのです。
 最初に取りかかったのは『ウイリアム・シェイクスピア』の序曲でした。楽譜はすでに仕上がっていました。各五線に配置している音符に指定の楽器の音を音源から選び当てはめるのです。そして、全ての楽器に音を当てました。そして、これを聴いたときの感想は----頭の中にクエスチョンマークが渦を巻いたという表現に近いものでした。「?????????なんじゃ、これ!」と言ったかどうか覚えていませんが、実際の音と全くかけ離れた非音楽的なものでした。
 例えば実際のフルートの場合、一つの音をとってもアッタックの強弱、音量の変化、ビブラート、音色など様々なニュアンスがあるはずです。このようなことを音源から導き出された音一つ一つにそのデータを与えることは経験不足の私にとっては至難なことです。それでもできるだけ工夫できる操作は加えました。
 その他にもピノの音で作ったものが出来上がった時点で、恐る々る杉本氏、加藤氏に聴いてもらいました。ピアノの音はそれほど違和感がなかったようですが、オーケストラの音は耳の鋭い二人が良いと言うはずはありませんでした。
 それならオルガンの音色にしたらシェイクスピアの時代的にもマッチするからと考えこれも試みました。しかし、オルガンの音色は微妙なニュアンスを生み出すのは不得手です。これも杉本氏、加藤氏に聴いてもらいましたがOKは出ませんでした。
 演出の杉本氏は舞台作りで一番面白いのは「自分は楽譜は読めないが、シーンに相応しい適切な音楽を探すこと」だと言っていました。最初の打ち合わせでシーンに当てるべき音楽が16個所あるとのことで、これをシナリオに合わせてその秒数、雰囲気などの概略を示してくれました。

開幕前の音楽 30分
導入の音楽 5分
ウイリアムの登場
ティタニアとアルフ
狩人の角笛
アルフの合唱
シェイクスピアの友人(バービッジ)が「マクベス」の草稿を演じる場面
3人の織物職人親方の紹介
結婚行進曲
ウイリアムの神への感謝
領主(トーマス卿)と召使い(アラン)
アランの罠
ギルバート(ウイリアムの弟)の危機進言
ウイリアムとアンナの愛の場面
夢の中の「マクベス」の場面の音楽
終曲

 今回の上演では演劇の中身を休憩無しで通し、2時間以内に収めることは杉本氏の最初の考えでした。この中でお客様にできるだけクーラウの音楽を聴いていただくためにはどうしたらよいだろうかと考えました。幸い、杉本氏の演出では開場と開演の30分を演劇の一部分にするため、この時間に音楽を流すということとマッチしました。会場の入り口を開けると同時に序曲が流れ、その後開演の時間までピアノ曲で埋め、開演時間きっかりに「導入の曲」が始まるというもので、ピアノ曲の間に俳優が三々五々ステージ上でこれから始まるドラマの準備運動をするという設定でした。
 序曲9分30秒はオーケストラの音、ピアノ曲の約20分はピアノ曲です。序曲はさておき、ピアノ曲の部分はクーラウのピアノ変奏曲でまとめるということにしました。クーラウにはピアノのための変奏曲が沢山あります。ソナタと同様、世の中に殆ど知られていないものです。幸い、変奏曲はIFKSの出版プロジェクトの最優先にしているもので殆どが私の頭に入っていました。紹介したい曲は山ほどあるのでこの中から選ぶことは楽しみなことでした。
選んだ曲は
Op.15スエーデン民謡「こにちは、外套を着たラスムス・イエンセン」よりThema,Var.1,2,3,4,6 a-moll
Op.54ビアンキ作曲「カンツォネッタ」G-Dur
Var.4
Op.91スエーデン民謡「可愛いカリンは若い王子にかしづく」e-moll
Thema,Var.1,2,3,4,5,,6,7, 8,9
Op.93スエーデン民謡 第1主題と変奏部分e-moll
Op.18 乾杯の歌(『盗賊の城』より)a-moll
 Thema, Var.2,3,5,6
Op.62-2 「五月よ」(『オイリアンテ』より)A-Dur
Var.7
Op.18 乾杯の歌(『盗賊の城』より)a-moll
 Var.9
で親しみやすく印象的な主題と変奏でまとめ、開演前の雰囲気作りの曲として、お客様に聴いていただくことを主眼としました。できるだけ調性も統一を心がけましたがOp.15からOp.54のa-moll からG-Dur移行が不自然でそこに短いパッセージを作曲して挿入したりして、これで約20分の曲が出来上がりました。
(約20分)
 しかし、この30分の間にお客様がどれだけ入場して下さるかは開けてみなければ分かりません。事前にそのことはチラシにも書いてないし、それを聴いて下さる人は時間に余裕のある人に限られていることは予想していました。我が身を振り返ってみても演奏会に開場と同時に入ったことなど殆どないからです。しかし、少しでもクーラウの音楽を聴いてもらえる貴重な時間です。この曲は一体何だろうと思ってくれる人が出ればそれで良しとすることにしました。
 しかし、後になって開幕のファンファーレ(追加曲) 、ピアノ曲、序曲 の順になったのです。

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 これについてここでマックス・鷹野氏のことをお話ししなければなりません。私がオーケストラの音色で途方に暮れていたことは前述しました。LogicProでできうることを試みました。楽器の音色にいろいろなデータを付け加えても考えているような音が再現されません。時間はどんどん流れます。年が暮れ、年が明け、1月、2月、なっても出来上がりません。3月4日から稽古が開始されることになっています。果たして5月の公演に間に合うだろうかと心配になりました。私の能力の限界がはっきりと見えてきたことを告白しなければなりません。こんな状況を神様は見ていたのでしょう。3月の初旬に無名塾の須賀さんから電話がありました。デジタル音の専門家がいることを。天の声とはこのことでした。この方は鷹野雅史さん(マックス・鷹野という別名を持つエレクトーンの大家です)といって、たまたま今回の配役のシェイクスピアの恋人役アンナ(鷹野梨恵子さん)の父君であるとのことでした。早速お目にかかる段取りをして3月11日にアポイントをとりお話しをさせて頂きました。私の行き詰まった悩みを聞いてくれて、私の編曲したものを聴いてすぐさまエレクトーンで再現して下さったのですが、それは見事と言う他ありませんでした。オーケストラの部分を「エレクトーンの音で作りましょう」と請け負ってくださった時はどんなにホッとしたことか。4月12日に二度目にお会いしたときは杉本氏、加藤氏も同道してもらいエレクトーンで『シェイクスピア』序曲を聴かせてもらいました。全て暗譜で全曲を弾き終わったとき、我々3人は思わずブラボーの拍手をしてしまいました。序曲を開演前の30分の最初に置いたら一体何人の人がこの素晴らしい演奏を聴き逃してしまうだろう、お客様が詰めかけてきた後ろの時間に流さなければもったいないと言うことになり、短いファンファーレを作って頂いて、その後ピアノ曲、序曲という順番にすることに決めました。こう決めたのが公演の1ヶ月前のことだったのです。 
 今回の音楽の中でクーラウのどの曲が使われたかを挙げると、先ず『ウイリアム・シェイクスピア』、ピアノソナタ、ピアノ変奏曲、『ルル』、『妖精の丘』、『魔法の竪琴』などからです。それらは必ずしもそのまま転用したのではなく調性、小節数、音高、楽器編成など様々に編曲したので、注意しないとお客様(クーラウの音楽を知っている)には原曲が何か判別しにくいものもあったことでしょう。

 無名塾の稽古は3月4日から始まりました。第2回の本読み3月6日に顔合わせと言うことで俳優の皆様に初めてお会いしました。この時点ではこの演劇がどのように形作られるかは未だ見えていませんでしたが、若い俳優たちの熱意を強く感じました。紹介され、挨拶をしたときに「皆様、クーラウのことをご存知でしょうか」と聞いてみました。一人だけ「ソナチネ」という言葉を返した人がいましたが殆どの人にとっては無知の作曲家だったのです。「クーラウの音楽で、演劇を支えられるような音楽を作るつもりです。」と挨拶をしたように覚えています。この時点で自分自身でもどんな音楽になるか分かっていませんでした(鷹野氏とお会いしたのはこの日の後です)。
 こうして本読みから始まり立ち稽古に入り約2ヶ月半の俳優の稽古が連日のように本番まで続いていったのです。その間私は折に触れて稽古を参観させて頂き感触をつかむようにしました。
 2005年のオペラ『ルル』の時は約3ヶ月の練習でした。長時間をかけて一つのものを作り上げていく作業はオペラと同様、演劇も大変なことだと言うことを実感しました。
 これに引き替え、音楽家は簡単に演奏会をしてしまえるものだなあと思ったりもしました。これは楽譜を見ながら演奏会ができると言うことに大いに理由があるのだと思います。オペラや演劇はそれができないきびしい世界なのです。 それでは導入曲から種明かししましょう。
 元となったのは『シェイクスピア』の第1幕の第一場の第1曲です。シェイクスピアの音楽からの転用はできるだけ多くしたかったのでここに入れることはオリジナル通りなのですが短縮しなければ5分以内に収まりません。更に幾分後ろめたさを感じたのですが、原曲の結婚行進曲を無理矢理挿入したのです。何故ならこの素朴で印象的なメロディーを『シェイクスピア』から外してしまったらクーラウが可哀想だったからです。(後に、このメロディを鷹野氏がマクベスの場面でもう一度取り入れてくださり素晴らしい効果を上げました)。そしてオベロン、ティタニアを呼び込むコーラスの3つの部分で出来上がりました。導入の音楽 (4'08'') オーケストラ音

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『ウイリアム・シェイクスピア』の結婚行進曲のメロディ (特別ヴァージョン)これは劇中で用いなかったものです。



 導入の音楽の最後のところでステージに最後に残ったウイリアム(準備体操の他の俳優はこの時点で全て退場しています)のところにティタニアとアルフが現れ若者を見守ります。この劇は妖精の世界のオベロン、ティタニア、アルフは人間界の者には見えないのです。暗転
明転 ドラマはここから始まります。
第1幕第1場 森の中 
舞台は森の中、オペロン、ティタニア、アルフ(セリフ無い役)の場面 ウイリアムが赤子の時、森でアルフの踊りと歌を聴かせた昔を話し合います。そこに成人したウイリアムが登場。彼はいつも森に来て詩作をするのです。
ウイリアム登場の音楽(0'45'') ピアノ音

 

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前半はOp.54ビアンキ作曲「カンツォネッタ」Var.12. T.387-397
後半はOp.54ビアンキ作曲「カンツォネッタ」Var.4(省略形)


第1幕第2場 ウイリアムの家 演劇仲間の友人の訪問 ウイリアムの葛藤(詩人として生きるか、職人になるか)音楽無し


第1幕第3場 森の中 ティタニアとアルフ (4'05") 途中ウイリアムの登場 ピアノ音

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ピアノソナタOp.30-II T.66以降 (所々に挿入句が入っています)

 ウイリアムとアンナが森で逢い引きしているところに、意地悪な領主と家来に言いがかりをつけられ、あわやというところで狩人の角笛の音が聞こえてきます。これはオリジナルにあるものです。オーケストラ音(ホルン)

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『ウイリアム・シェイクスピア』第3曲 (a) 合唱

 二人の危機を救ったのはティタニアの計らいでした。ティタニアとアルフがうまく行ったことを喜ぶ場面です。これもオリジナルにあるものです。オーケストラ&女声合唱の音

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『ウイリアム・シェイクスピア』第3曲(b) 合唱


第2幕第1場
ロンドンから来た演劇仲間・友人バービッジがウイリアムから借りた「マクベス」の草稿を読んで絶賛する場面 ピアノ音

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ピアノソナタ 作品30第4楽章 (実際は途中で切られました)

第2幕第2場
今日はウイリアムが織物職人の徒弟になれるかどうかの親方3人の審査を受ける日。回り舞台の上には親方3人。アンナの父親・ハザウエイ卿が親方3人をジョン親方(ウイリアムの父)に紹介する場面。この曲は杉本氏、加藤氏も最初に聴いたときから「これは良い」と言ってくれたもの。これを振り付けと合わすためにどれほど苦労したことか! ピアノ音

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ハザウエイ卿「一人は学を鼻にかけるが気立ては良くて少々頭が足りぬ。かつて陪審の第一審判だったことが忘れられぬ奴。〜ポロン、ポロン、ポロン、ポロン!〜2番目の親方は若くして未亡人になった、この町初めての女親方だが、今は織物の目利きより、酒の目利きの方が本職だ.ワインが良ければ、我が息子を悪いようにはしないだろう。〜ポロン、ポロン、ポロン

このポロン、ポロン、ポロン、ポロン!というのは以下の音型で

この部分がセリフの終わる個所に親方のそれぞれがキメの動作をするという約束で、ピッタリと合わせなければならず「2秒詰めてくれ、とか3秒伸ばしてくれ」などの注文により、その度に音型を変えたり拍数を変えたりしましたがそれによって和声進行も不自然になったりで、結局5回の作り直しをしたものです。
これほど緻密に計算したのに、残念なことにたった一度だけ音の入りが遅く(音響さんの手違い)うまくいかなかった時がありました。それは初日でした。後で音響さんが頭を抱えていましたが-----その他のステージは全てバッチリでした。この場面が終わると毎回ホッとしたものです。 ピアノ音

オペラ『魔法の竪琴』第6曲 パンフィルスのアリアより

 ウイリアムは織物職人徒弟になることを許されました。と同時にアンナとの結婚も許されました。しかも今日!
 ウイリアムは天にも昇る喜びで神への感謝。 ハープ&女声合唱

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オペラ『ルル』第1幕 光の精の合唱

第3幕第1場
結婚行進曲
 オリジナルの結婚行進曲は陰気な感じがするので陽気な楽しい曲に替えたいというのは杉本氏の最初からの要望でした。これは該当する曲がすぐ思い当たりました。『ルル』の第3幕にある結婚行進曲です。

オリジナルはオーケストラと混声合唱です。なお、今回は歌を俳優が歌うというものです。本来は混声四部ですがその内のソプラノ旋律をみんなで一緒に歌うと言うことになり、歌詞も替えなければなりません。オリジナルのメロディは上記のようにB-Durです。このままの調性では最高音にg''が出て来る個所があります。全員が歌いやすい調は何調かを調べることもしなければなりません。ある日の稽古に立ち合いB-Dur,F-Dur ,G-Durの3種類の楽譜を用意し俳優の皆様に歌ってもらいました。やはりg''は無理と言うことが判明しました。どうもF-Durが良さそうです。そうすれば最高音はd''となります。
 歌詞はシェイクスピアの書いた詩から転用することが決まり、結婚式に適当なものを『真夏の夜の夢』から選んでもらいましたが、そのまま音符に乗せられません。言葉の省略、重複などを用いてなんとか作り上げたものがステージで歌われたものです。このオーケストラの音は田舎風にという注文の上で鷹野氏が演奏して下さったものです。

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 前奏のところからウイリアム、アンナが腕をつなぎ、その後に村人たちが続き入場してきます。このシーンがまさかこんなにうまく行くとは予想もしていなかったほど俳優の方々が練習して下さいました。アンナのお父さん、ウイリアムのお父さんが途中で一人で歌ったり、リフレインではウイリアム、アンナ、3人の親方のソロになったり、見ている人も一緒に歌いたくなるような場面でした。なお、後奏で鷹野氏のアドリブが入っているのですが、この部分はお客様の耳に達しないうちにフェードアウトしてしまったのです。それは鷹野氏も承知していたことですが、氏の茶めっぷりがこんなところに現れていたのはお客様は誰も知らないことだったのです。古関祐二作曲の甲子園・高校野球「栄冠は君に輝く」の音楽です。ただし、この行進曲はフィナーレのカーテンコールの後お客様の退場の際、一度だけ流れましたので最後まで残っていた人の何人かは聴いたかも知れません。

3幕1場
 領主トーマス卿は第1幕第3場の角笛の音で狩人を追いかけたとき、愛犬ダイアナが怪我を負い今や死にそうになっていることで傷を負わせた密猟者に憤懣やるかたなく、いらついています。トーマス卿はアランに密猟者を捕まえたら1ギニーの賞金をやる約束をします。これを聞いてアランは計略を思いつきます。今晩、ウイリアムの結婚式が行われます。結婚式の後、花嫁を家まで送り新郎は酒場で組合の若者たちをもてなすのがしきたり。そのあと花嫁の家でダンスをする。浮かれた者が森で狩りをする。今夜も徒弟たちが領主の庭先に来て騒ぐだろう。その時ウイリアムを捕まえれば良いとアランは領主に進言します。こんな良い機会はないと領主は考え、ウイリアムを捕まえれば10ギニーをやると賞金付きで命令します。アランは計略がうまく行ったことをほくそ笑みます。この時の音楽です。
 ここで杉本氏は陰険なおどろおどろした音楽が欲しいと言われました。
そこで選んだ曲が

でした。これをご覧になって曲名がお判りになったら貴方はクーラウ名人です。ピアノ曲です。これを聴いた杉本氏は弦楽器の低い音域の荒々しい(ざらざらした)音で欲しいと言われました。そこで鷹野氏に演奏していただき次のようなものができました。

 曲目の種明かしを致しましよう。ピアノソナタ6a-3-II モーツァルトの主題『魔笛』の「僧侶の行進」の主題による変奏曲から第3番の変奏です。 弦楽器の音

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 杉本氏の演出では、ウイリアムに空鉄砲をけしかける二人の徒弟をアランが雇った者に作りかえています。そして犠牲となったのろ鹿をティタニアの化身とした杉本氏のトリックは劇の最後に絶妙に明らかにしています。

同幕、同場
 アランと彼に雇われた偽の徒弟二人がまんまとウイリアムを罠にかけたことを喜び合い、これから治安判事の所に行こうと相談をしている。これは杉本氏の創作で挿入されたシーン。不気味さの後に決然とした音楽と言う注文。曲の中半(a tempo)で暗転し、第2場に移る。 ピアノ音

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ピアノソナタ・Op.46-3-Iの動機で編曲 ピアノ音

第3幕、第2場
 トーマス卿の部屋:明転 領主がダイアナが死に瀕していることで物思いに沈んでいる。ウイリアムの父とハザウェイ卿が領主にウイリアムの犯した行為を不問にしてほしいと訴える。領主は偽りの承諾を与える。二人を安心させ、実は夜中に治安判事を差し向け逮捕することを考えている。 音楽無し 

同幕、同場
 アランと偽の徒弟二人がこれから治安判事の所に行こうと相談をしている。弟ギルバートはこれを陰から見てその陰謀を知る。危急を知らせるためにウィリアムのところに走る。

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音楽盛り上がり急に暗転。暗い中で音楽は続きクライマックスで音楽止む。次第に明転するとウイリアムの部屋。
『シェイクスピア』序曲・前半の劇的な箇所(43~51小節)より(選曲及び名演の鷹野氏に脱帽) オーケストラ音

第3幕、第3場
 ギルバートの知らせで領主の陰険な考えが分かり、ウイリアムは領主の魔の手が伸びる前に逃亡を決意。決別に際して愛を誓い合うウイリアムとアンナのシーン。 ピアノ音

Cache-30-14_love_anna_william_iPhoneAnna & WilliamEmbed YouTube Video by VideoLightBox.com v2.5m

皆様、ご存知の「Wanted Sherlock Holmes!」で有名になった?例の曲です。
(ご存じない方は以下のページをご覧ください)
http://www.kuhlau.gr.jp/colum/sherlockholmes_andantino.html
http://www.kuhlau.gr.jp/colum/sherlockholmes_solution.html
ロマンティックなメロディとしてはクーラウの作品中、白眉と目される曲。
ピアノソナタOp.46-3-II

第3幕第4場
アンナと待ち合わせている森の中
第1幕第3場で使った曲がもう一度流れます。 ピアノ音 (お時間のない方は先へお進み下さい)

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ピアノソナタOp.30-II T.66以降

 先に来てアンナを待っている間にウイリアムは眠りに誘われます。夢の中でウイリアムは「マクベス」のシーンを見ます。オリジナルでは無言劇ですが杉本氏はここでセリフを入れ、スペクタクルなシーンに合わせ劇的な音楽を付ける演出に変えました。この場面は全て鷹野氏のオーケストラ編曲と演奏です。シーンが変わる事に雷鳴が鳴ります。

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●3人の魔女の登場。バンクオー登場-----『ルル』より第3幕の嵐の音楽その1


●ダンカン王の登場。マクベスがダンカン王を刺殺。-----『妖精の丘』序曲のファンファーレ


●マクベス夫人の登場 血の付いた短剣を持って呆然としているマクベスから剣を取りあげる。刺客バンクオーを暗殺-----『ウイリアム・シェイクスピア』序曲の旋律を用い編曲


●臣下たちの感謝、バンクオーの亡霊、夫人のマクベスへの叱責、-----『ウイリアム・シェイクスピア』序曲の導入部の動機と『ルル』の嵐の動機を取り混ぜた編曲


●3人の魔女、幻影1、幻影2、幻影3-----『ウイリアム・シェイクスピア』序曲のフーガの動機を用いた不気味な音楽
●マクベス夫人 血塗られた自分の手を見て苦しむ-----『ウイリアム・シェイクスピア』序曲の冒頭の動機による劇的な音楽


●敵軍勇士たち-----『ルル』の嵐 その2


●マクベス(ウイリアムが扮する)決戦の決意-----『ウイリアム・シェイクスピア』の結婚式の旋律を朗々たる音楽に編曲 フェードアウトしてマクベスの独吟


●マクダフ登場 マクベス(ウイリアム)と剣闘-----『ルル』の嵐 その3

 マクベスの死と共に暗転、明転するとウイリアムが森の中で倒れている。アンナがやって来る。夢から覚めたウイリアムは今見た夢で将来詩人となる自信が湧く。二人は手を携えてロンドンに向けて旅立つ。

終曲 オーケストラ音

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『ウイリアム・シェイクスピア』の第8曲 合唱 

 かくして無名塾公演『ウイリアム・シェイクスピア』の音楽作りが終わりました。初めの不安も鷹野氏の協力を得られたことにより吹き飛びました。特に無言劇では約10分近い夢の場面で、鷹野氏はクーラウ作品から様々な部分を有機的に組み合わせて見事な音楽を作り上げてくださいました。
 なおカーテン・コールが終わりお客様の退場に合わせて劇中の結婚行進曲の音楽が流れたことは前にお話ししました。鷹野氏はおまけにクーラウのピアノ・ソナチネOp.55-1の第1楽章を弦楽器のピッチカート版を作って下さいましたが、劇中使うところがなかったのです。残念に思っていたところ音響さんが千秋楽の最後の最後に1度だけ会場で流してくれました。これを聴いた人は数人だけだったのは残念なことでした。
(弦楽器のピッチカートの音)


 演劇を観ることを主としてご来場下さったお客様が、後ろに流れたクーラウの音楽についてどのように感じられたかは不明です。ただし、クーラウ協会の会員で来て下さった方はその点、音楽を注意深く聴いて下さったようです。私は今回の公演10回を開場から終演まで全て観ました。一つの演目をこのように見続けたことは人生で初めてのことです。演劇と音楽、さらにはクーラウの音楽について考察するよい機会となりました。公演中のある日(開演前のピアノ曲の演奏中)無名塾の担当者が、今演奏している曲が何かを知りたいという一人のお客様を私の席に連れてきたことがありました。 ピアノの指導者だということでした。クーラウのことが少しでも広まったことを嬉しく思いました。
 なお紙面で音楽を説明することは難しいので、この音楽はクーラウ協会のホームページで聴ける様になっています。併せてお読みいただければ幸いです。
(以上会報掲載文です)


以下はゲネプロの記録です。この中の音源は省略ヴァージョンです。

開場直後のファンファーレ
ピアノ曲が流れる中での俳優の準備運動 (1)
ピアノ曲が流れる中での俳優の準備運動 (2)
序曲が流れる中での俳優の準備運動 (3)
森をさまようシェイクスピア
演劇仲間の訪問
ティタニアとアルフ
アンナとシェイクスピア
密猟嫌疑
角笛
危機を救ったティタニア
弟ギルバートの叱責
友人バービッジの戯曲『マクベス』の称賛
織物職人の宣言
織物職人親方審査風景
密談
ワインの力?
職人認可の演説口調の挨拶
審査に受かり結婚の許しが出て踊って喜ぶシェイクスピア
結婚の喜び・神への感謝
結婚式の行進
偽りの約束「告訴の放棄 」
兄さん、逃げるんだ!
幻影「マクベス・三人の魔女---いつまた三人会うことに?」
幻影「マクベス・ダンカン王---おおマクベス、立派な身内を持って嬉しいぞ」
幻影「マクベス・三人の魔女---三度啼いたぞ、ぶちねこが---」
幻影「マクベス・夫人の狂乱---消えておしまい、忌まわしいしみ!消えろと言うのに!」
幻影「マクベス・幻影の声---女が生んだものなどにマクベスを倒す力はない」
幻影「マクベス・マグダフの剣に滅ぶ」
終曲「シェイクスピア、万歳!」
カーテンコール

無名塾『ウイリアム・シェイクスピア』公演

日程:東京公演:2013年5月18日~5月25

ステージ数:10ステージ
場所:吉祥寺シアター
チケット料金:一般4800円(全席指定)、学割3500
一般前売開始:2013年3月18日(月)

作品名:「ウィリアム・シェイクスピア」

作:カスパー・ヨハネス・ボイエ
音楽:フリードリヒ・クーラウ

翻訳:福井信子
脚色・演出:杉本凌士
出演:松崎謙二、中山研、本郷弦、川村進、江間直子、樋口泰子、 円地晶子、井手麻渡、別所晋、吉田道広、鷹野梨恵子、 平田康之、仲田育史、加藤裕人

登場人物
ウィリアム・シェイクスピア・・・・・・松崎謙二
アンナ・・・・・・・・・・・・・・・・鷹野梨恵子(塾生)
ジョン・シェイクスピア・・・・・・・・平田康之(客演)
リチャード・ハザウェイ・・・・・・・・中山研
ギルバート・シェイクスピア・・・・・・別所晋(塾生)
バービッジ(ウィリアムの友人 役者)・・本郷弦
グリーン(ウィリアムの友人 役者)・・・井手麻渡
プラトリング(織物職人の親方)・・・・・加藤裕人(客演)
シンシア(織物職人の親方)・・・・・・・本郷弦
ソーバリ(織物職人の親方)・・・・・・・樋口泰子
徒弟1・・・・・・・・・・・・・・・・加藤裕人
徒弟2・・・・・・・・・・・・・・・・井手麻渡
トーマス・ルーシー・チャースロト・・・川村進
アラン・・・・・・・・・・・・・・・・仲田育史(客演)
アルフ・・・・・・・・・・・・・・・・円地晶子
オベロン・・・・・・・・・・・・・・・吉田道広(塾生)
ティタニア・・・・・・・・・・・・・・江間直子

STAFF
舞台美術:角浜 有香
照明:三澤 裕史
音響:山岸 和郎
衣裳:渡辺 まり
振付:山崎 涼子
擬闘:森岡 隆見
舞台監督:金安 凌平
制作:須賀 力
協力:インターナショナル・フリードリヒ・クーラウ協会、株式会社仕事
音楽監修:石原 利矩
編曲、演奏:鷹野 雅史

共催:公益財団法人、武蔵野文化事業団
製作:無名塾


「ウィリアム・シェイクスピア」の日程
5/18(土)16時~、
5/19(日)14時~、
5/20(月)14時~
5/21(火)14時~、19時半~、
5/22(水)14時~、
5/23(木)14時~、
5/24(金)14時~、19時半、
5/25(土)14時
以上10ステージ
場所:吉祥寺シアター、料金:4800円(学割3500円)