デンマークの音楽誌「CUSTOS」に「ロンドとピアノ小品集」の記事

クーラウ「ロンドとピアノ小品集」がデンマークの音楽誌2017年3月号CUSTOSに掲載され紹介されました。
デンマーク語でブスク氏の執筆です。
この楽譜はIFKSのデンマーク代理店Helge Schlenkertから売り出されています。
1冊の価格は275クローネ(約4,500円)、全巻で742.50クローネ(約12,000円)となっています。
日本での価格は1冊2,700円、全巻で8,000円ですから輸入版は高価になることがおわかり頂けることと思います。



クーラウのピアノ作品
ゴーム・ブスク
 ワルツ、エコセーズ、行進曲、いくつかの大きめのロンド、ディヴェルティメントなどのピアノのための小品は第1巻に含まれる。一方後の両方の巻には後期のロンドが含まれ、変奏曲と同様。コペンハーゲンの王立劇場で上演されたオペラのメロディが用いられていることがわかる。最も用いられたメロディはモーツァルト、オーベール、ロッシーニでそれぞれ5曲、次にボワエルデューが3曲、エロルドが2曲、イズアールが1曲となっている。それに全く忘れ去られたフランスの作曲家ジョルジュ・オンスローの最も有名なオペラ『行商人』からの2曲がある。その中の1曲はフルートとピアノのために自ら編曲したものであり彼のロンドの中でも極めて美しい曲の一つである。
 その他にクーラウが自ら選んだベートーヴェンの歌曲からの3曲と2曲の民謡のロンドがある。しかし、その他のメロディは出版社(殆どはデンマークのローセ社)が決めたものである。民謡の2曲の内、1曲はフランス-ドイツの「僕は小太鼓手」(イラスト参照)であり、もう1曲は作品109にあるドイツ民謡で、その調査を懸命にしたのにもかかわらず原典が不明のものである。この民謡は冒頭は多くの民謡に見られる形であるが、それに続く個所はクーラウが作曲したものであろう。最後の技巧的なイントロダクションを持つ2曲のロンドはパガニーニの最初の2曲のヴァイオリン協奏曲の最終楽章の主題から採られていて、それらは「La Légerèt」(軽快)とパガニーニ自身の命名による「La closchette」(鐘=ラ・カンパネルラ)と記されている。調性は原曲のニ長調とロ短調からそれぞれヘ長調とイ短調に移調されている。これらの移調は簡単なことであるが、かなりの確実性をもって言えることはクーラウはこの楽譜を持っていなかったようである。2曲目では6/8拍子のが3/4拍子で書かれているのである。
 イントロダクションで避けられないものは幅広い重音奏法や技巧的なパッセージのステレオタイプである。しかしクーラウの場合常に何か音楽的な興味を惹くものであり後に続くものと緊密な関係を備えている。例えば次に来るロンドの主題にやや似通ったものが現れるもの(「僕は小太鼓手」を再度参照)が挙げられる。
 ロンドの形式は殆どが当時の様式のロンド・ソナタ形式である。それは主要主題(リフレイン)は提示部分と再現部分に2度現れるものである。クーラウの特徴として再現部分において主要主題が現れず、主要主題と副主題の中間的な音楽が現れる。故に4回現るべきところが、彼の場合3回となる。最後は変形されたコーダで終わる。
 特記するものとして変ホ長調の大ディヴェルティメント、作品37がある。それはMaestoso-Allegretto, Marcia, Rondo alla Polaccaの3つの部分が1曲に纏められているものである。それに作品61のワルツ様式による6曲のディヴェルティメントで初期の同様の小ワルツ集よりも遙かに飛翔感のあるものである。---しかしながら頂点にあるものはLes Charmes de Copenhague, Introduction og Rondo over danske melodier(コペンハーゲンの魅力、デンマークのメロディによるイントロダクションとロンド)作品92である。(イラスト参照)。これは粋でファンタジックな作品である。当時Les Charmes de---の後ろに都市の名前が来るもので、作曲家とその都市と特別の関係を推量しなければならないロンドが沢山あるが、それとは一線を画している。そのような作品にはモシェレスのパリ、カルクブレンナーのベルリンとカールスバート、チェルニーのバーデン、ピクシスのウイーン、ヒュンテンのワルシャワなどがある。これらの作品はそれを名付けた首都の国のメロディを持っているわけではない。しかし、クーラウの作品はこの題名に相応しく「より正鵠に」6曲のデンマークのメロディが用いられている。殆ど昔のと言って良いベイ(Bay)の国民歌、ワイセ(Weyse)の懸賞問題の提案としての2曲の異なる新作の故国の歌「デンマーク、聖なる響き」、クロイヤー(Krøyer)の「我が生まれしデンマーク」、決して忘れることができない自身の最も有名なオペラ『ルル』の序曲の第2主題。そしてこのロンドは「クリスチャン王」で印象深く終わる。1828年6月という作曲時期から考えるとこれは1828年7月から9月に作曲し、1828年11月6日に初演された『妖精の丘』作品100の音楽の下絵のように思える。端数を切り上げた作品番号(訳者注:100という数字のこと)をクーラウは彼のライフワークのために取っておいた。何故ならロンドの後の作品番号(作品93〜99)は『妖精の丘』よりも後に作曲されたからである。国民歌を採り上げるというアイデアは彼の弟子であるスウェーデンのピアニスト、カール・シュヴァルツ(1803〜34)の1830年から作曲し始めた一連の変奏曲「スウェーデンの旋律と踊りによるファンタジー」には『妖精の丘』の中では「海の底深く」と題される「ネッケンのポロネーズ」の主題が用いられており、クーラウの1829年に作曲された「スウェーデンの旋律によるファンタジー」作品93に霊感を得ている。
 クーラウのピアノ曲全集の私たちの出版を(はじめの計画と異なるが)『妖精の丘』と同様に有名なソナチネで締めくくることにした。これは彼のピアノ音楽の第4シリーズであり、これらは最初のUrtext版となる(クーラウ自身の指使を用いている)。私たちは当然のことながらソナチネによってこの出版を成就することになるが、これがすでに出版されたソナタや変奏曲やロンドに含まれる価値ある作品を覆い隠すことがないように希望する。ピアノソナタ曲集と変奏曲集はそれぞれCUSTOSの2013年6月号(11年度第2巻)と2014年12月号(12年度第4巻)に紹介されている。

楽譜はインターナショナル・フリードリヒ・クーラウ協会を通じてHelge Schlenkert社、Lidsøvej 71. DK 2730, Herlev. schlnekert@12move.dkから売り出されている。各巻275クローネ(消費税込み)、全巻742.50クローネ。

Updated 2017.3.3