すてきな話(石原利矩)


 
絵:森 史夫

 世の中には様々な偶然があります。そしてこの偶然から新しい出会いが生まれ新しい事柄が発展する場合があります。私がクーラウの事に没頭するようになった経緯はもう皆様ご存知のことと思いますがそんな偶然が重なったからなのです。

 数日前、九州のお弟子さんから一通の手紙を頂きました。その手紙と一緒に一冊の雑誌が同封されていました。たまたまその雑誌を手にしたそのお弟子さんは何が何でもこの文章を私に見せなければといってすぐさま送ってくれたのです。付箋が付けられたページをめくってみると次のように始まる随想でした。

 

 「アリンクリン紀行」
 デンマークのフリードリヒ・クーラウ作曲のオペラ『ルル』を聴くチャンスがあった。
 1824年に本国で初演されたというこのオペラは、2000年3月に、東京オペラシティ・コンサートホールで本邦初演。配役はあるが舞台装置や演劇的所作のない、演奏会の形式で公演された。
 有名なモーツァルトのオペラ『魔笛』と比べられて、「もう一つの魔笛」とも呼ばれるこの物語の中では、不思議な力を持って鳴り響く笛が、重要な役割を占めている。北欧随一といわれるフルート奏者が、オーケストラに加わっている。
 魔笛、フルートのソロが情感豊かにメロディを奏でている、と絶妙のタイミングで複数のチェロが追うように重なって---「キマッタァ」とか、「これしかない」とか、フィットした、あるいはぴったりきた感じになんとも心地よさに充たされている自分。「おさまりがいい」という言い方は、デザイン制作などで材と材の構成や関係に、無理がなく、不自然さのないときにつかわれるのだが、あの瞬間の音による実感はまさにこれだった。
 こんな時、どうやってどんな方法でこの感動を記録し、表現すればいいのだろうか。
 耳で受けたこの充足感を、目に置きかえてみると、「あるべくしてある」とか「む、絵になる」とか、キマッタ風景にまれに出会う。時間がないとき、同行者に悪いなあと思いつつも、小さなスケッチブックを開くのはそんな時だ。
 しっとりしたまちなみ、古い味わいのある民家群、海や山河の風景---。(後略)

 私はこの文章を読み終わったとき何とも言えぬうれしさがこみ上げてきました。あの3月26日の演奏会の会場のお客様の一人にこのように『ルル』の音楽を受け止めてくださった方がいらしたとは。
 たしかに演奏会のあと大勢の方々から批評を伺うことができました。新聞評、音楽雑誌にも批評がでました。有り難いことに殆どが好評の批評でした。しかし、こんな形であの演奏会を表現して下さった方は初めてでした。私はこの文章を是非IFKSホームページに転載して皆様にも読んでいただきたいと思い、厚かましくもその雑誌の出版社に電話をかけ掲載の許可をお願い致しました。快く話を聞いて下さり全文でなく関係する個所のみという条件付きで許可をいただきました。その際執筆者との直接の電話もOKを取りつけました。
そして、すぐさまその方と電話でお話をさせていただきました。建築家で有名な森史夫(ちかお)さんと言う方がその人です。ご自分の書かれた文章から追跡された事を驚いていらっしゃいましたが、その文章に付された絵の掲載も快く認めて下さいました。
 私がこの先『ルル』をオペラの形で上演したいとお話ししたところ「もうそれしかないのではないですか」と言われました。
 そして、翌日「次の演奏会を楽しみしています」というEメールを頂きました。

 (「アリンクリン」とは沖縄地方の言葉で「あれもこれも」という意味)

 全文をお読みになりたい方は金融財政事情研究会発行「Bank Card」2000年6月号(6~7頁掲載)をご覧下さい。